研究成果
3.論文解説
循環器疾患における腎疾患と血圧の影響
本論文を執筆した二宮利治先生(九州大学大学院)よりコメント ・・・
慢性腎臓病に興味を持ったのは、血清クレアチニン値が2.0 mg/dlと既に上昇してから腎臓内科に紹介される方々をみて、もう少し早い時点での介入が必要ではないかと思ったことでした。GFRを使えば、クレアチニンより早期に腎機能低下を見つけることができます。今回の成績では、早期の腎機能低下の時点から循環器疾患を起こすリスクが高いことを示しました。さらに、腎機能低下者に対しては積極的に血圧を低下させる指導や治療を行うことで、循環器疾患を減らせる可能性が示唆されました。
はじめに
腎臓の機能が低下すると、循環器疾患のリスクが高くなり、血圧も高くなる事が知られています。そのため、腎臓の機能が低下した人には、血圧を管理する事が大切であると考えられてきました。しかし、一方で、腎臓の機能が低く、血圧が低い人では脳卒中や死亡のリスクが高い(Jカーブ現象)と報告する研究があり、腎臓の機能が低い人に対して血圧を低下させる治療(指導)をおこなうことがよいかという議論もあります。

そこで、本研究では、JALSの0次統合研究のデータを用いて、循環器疾患に対する腎臓の機能と血圧の関係を検討しました。
腎臓の基本的な役割は心臓から送られた血液をフィルターで濾すことによって、血液中の老廃や余分な水分を尿として体の外に捨てることです。この中心的な役割を担っているのが、糸球体(しきゅうたい)という毛細血管のかたまりです。

腎機能を評価する指標として、血清クレアチニンなどがありますが、クレアチニンは年齢や性別・筋肉量などに影響される指標であるため、それらの要因を考慮した糸球体ろ過値(Glomerular Filtration Rate:以下、GFR)が用いられています。
方法
本研究に必要な項目が調査されていた10コホートのうち、年齢が40歳から89歳の30,657人のデータを用いました。

腎臓の機能を評価するために、血清クレアチニンの値からGFRを推定しました。
結果
年齢と性別を調整した循環器疾患の発症はGFRが低い人で有意に増加していました。多数の要因を調整した結果でも、GFRが60以下の人ではGFRが90以上の人よりも循環器疾患のリスクが57%大きくなっていました。

また、血圧の区分ごとに循環器疾患のリスクを検討したところ、GFRの値によらず、循環器疾患のリスクは血圧の上昇とともに高くなっていました。
おわりに
本研究の結果から、腎機能の低下が循環器疾患発症のリスクになっている事、さらに、腎機能によらず、血圧の上昇が循環器疾患のリスクを増加させる事が明らかになりました。

従って、腎機能の低下が見られる人達の循環器疾患予防には、至適血圧(高血圧治療ガイドライン2009,120/80mmHg未満)を目標に血圧のコントロールを行う必要性があると言えるでしょう。
Toshiharu Ninomiya, Yutaka Kiyohara, Yosuke Tokuda, Yasufumi Doi, Hisatomi Arima, Akiko Harada, Yasuo Ohashi, Hirotsugu Ueshima, for the Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study group. Impact of kidney disease and blood pressure on the development of cardiovascular disease:an overview from the Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study. Circulation. 2008 ;118:2694-701. (PUBMED)

(この号ではアジアにおける心疾患の研究が特集されており、久山町研究による結果や、上島弘嗣先生によるレビューなども掲載されています。)