研究成果
3.論文解説
比較的痩せた人が多い日本人集団におけるBMIと脳卒中・心筋梗塞のリスク
本論文を執筆した八谷寛先生(名古屋大学)よりコメント ・・・
男女とも肥満度の上昇に伴う血圧の上昇が原因となって、脳卒中に罹るリスクが上昇するようでした。また男性では、肥満度の上昇に伴って急性心筋梗塞に罹るリスクが高くなりましたが、その理由は、血圧の上昇だけではなく、肥満度の上昇によって起こる種々の変化が関係しているようでした。こうした事実は、比較的痩せの集団と言える日本人における研究では確証が得られていませんでした。脳卒中や心筋梗塞の予防対策としては高血圧や糖尿病などの「危険因子」の管理が重要ですが、そのための方策の一つとして、国民の肥満度の上昇を防いだり、改善することの有用性を示唆した重要な結果と言えます。
はじめに
 日本では過去数十年でBMIが30kg/m2以上の肥満の人が3倍になりました。しかし、アメリカでは肥満の人の割合が34.3%であるのに対し、日本では3.8%しかいません(2005年)。また、日本人などアジア人では、心筋梗塞よりも脳卒中の発症率が高いことも特徴です。このように、脳卒中が多く、痩せの集団である日本人においても、欧米と同様に肥満度と心筋梗塞や脳卒中に関係があるかどうかは十分わかっていませんでした。さらに、欧米では脳出血の発症が稀なため、BMIと脳出血との関連は世界的にもほとんど検討されていません。

 そこで、本研究ではJALS0次研究のデータを用いて、BMIと脳卒中(脳梗塞と脳出血)および急性心筋梗塞発症のリスクを検討する事としました。
BMIとは?
BMIとはBody Mass Indexの略で、
BMI=体重(kg)÷身長(m)2
で計算される、肥満度を表す指数です。

日本肥満学会(2000年)は、 BMIが22が標準とし、25以上を肥満として、肥満度を4つの段階に分けています。

方法
 研究開始時に脳卒中と心筋梗塞の既往がない40歳以上90歳未満の男女のうち、血圧、総コレステロール値、喫煙および飲酒習慣に関する情報に欠損のない45,235人(男性19,760人、女性25,475人)を対象としました。このうち脳卒中の検討に用いることができたのは38,515人、心筋梗塞の検討においては3,128人でした。

 対象者をBMIの値によって5つのグループ(21.0以下、21.0-22.9、23.0-24.9、25.0-27.4、27.5以上)に分け、21.0以下の群の脳卒中および心筋梗塞発症率を基準にした時に、その他の群の発症のリスクが何倍になるかを解析し、ハザード比という指標を用いて表しました。

 すべての解析は男女別に行いました。
方法に関する補足
年齢、喫煙や飲酒習慣の有無は、脳卒中や心筋梗塞のリスクに関係し、また年齢やそれらの習慣の有無によって肥満度も異なる可能性があります。肥満度と、脳卒中あるいは心筋梗塞発症率の間に認められた関連が、肥満度によって年齢、喫煙や飲酒習慣が異なることによる見せかけのものである可能性を防ぐため、統計学的な方法を用いて肥満度の異なる各群で年齢やこれらの習慣の有無に違いがないように調整して分析を行いました。なお、これらの要因を専門用語で交絡(こうらく)要因と呼びます。

一方向矢印(→)は、原因から結果という関係を表し、
双方向矢印(↔)は、原因、結果の方向性はなく、両者が関連していることのみを表す。
一方、血圧や総コレステロール値の上昇は、脳卒中や心筋梗塞の危険因子(原因)の一つであることがわかっています。肥満度の上昇はこれら危険因子の値を変化させて、脳卒中や心筋梗塞発症率に影響を与える可能性が考えられます。
このような要因は、肥満から脳卒中や心筋梗塞の発症に至る経路の中間に存在すると考えられるため、中間要因と呼びます。

今回の検討では、はじめに肥満度と脳卒中および心筋梗塞発症率の関係を交絡要因を統計学的に調整して調べました。そして、その次に肥満度による血圧や総コレステロール値の違いを考慮して、その関連性がどのように変化するか分析しました。もし、血圧や総コレステロール値を解析に含めた時に肥満度と発症率の間の関連がなくなった場合、肥満度上昇の発症率に対する影響は、血圧や総コレステロール値の上昇を介した間接的なものであると判断しました。
結果

 BMIカテゴリによる脳梗塞発症リスク(ハザード比) (図1) 


 BMIカテゴリによる脳出血発症リスク(ハザード比) (図2) 


 BMIカテゴリによる心筋梗塞発症リスク(ハザード比) (図3) 


 男性ではBMIが高くなるにつれて、脳梗塞(図1左、表1-1)、脳出血(図2左、表1-2)、心筋梗塞(図3、表1-3)のいずれの発症リスクも高くなりました。

 女性では、脳梗塞(図1右、表2-1)と脳出血(図2右、表2-2)に関しては男性と同様の傾向が認められましたが、BMIと心筋梗塞の間には関連は認められませんでした(表2-3、図には示していない)。

 男女とも、肥満度と脳梗塞、脳出血発症の関連は、血圧を解析に含めることによって、かなり、あるいはほとんど消失しました(図1、図2の赤色の線)。この結果は、肥満度の脳梗塞および脳出血発症に対する影響は血圧の上昇を介したものであることを示していると考えられました。

 一方、肥満度と心筋梗塞の間の関連性は、血圧と総コレステロール値を考慮することで、減弱しましたが、依然強い関連が残っていました(図3、緑色の線)。また、表には示していませんが、糖尿病の有無やHDL(善玉)コレステロールの値がある一部の対象者で、これらの値を調整しても、同様の傾向が残りました。これらの結果は、肥満度の心筋梗塞発症に対する影響は、血圧や総コレステロール値、そして糖尿病や善玉コレステロール値だけではなく、他の要因も介していることを示唆するものと考えられました。

 男 性 

表1-1. 脳梗塞



表1-2. 脳出血



表1-3. 心筋梗塞



 女 性 

表2-1. 脳梗塞



表2-2. 脳出血



表2-3. 心筋梗塞


*各表において、血圧は収縮期血圧、TC総コレステロール値、BMIはBody mass index(kg/m2)。
*値はハザード比(95%信頼区間)。
*95%信頼区間・・・ハザード比の真の値が95%の確率で存在する範囲。この範囲が1を含んでいない時に、推定されたハザード比が有意と判断できる。
*傾向性のp値・・・この値が0.05未満の場合に、心血管疾患発症リスクとBMIカテゴリの間に直線的関係があると判断した。
おわりに
 男女ともに、肥満度の上昇が脳梗塞および脳出血発症のリスクと関連している事が明らかになりました。

 男性では、肥満度の上昇と心筋梗塞発症のリスクが関連することが認められました。

 体重をコントロールをすることにより、男性および女性の脳卒中、男性の心筋梗塞発症を予防できる可能性が示唆されました。
Hiroshi Yatsuya, Hideaki Toyoshima, Kazumasa Yamagishi, Koji Tamakoshi, Masataka Taguri, Akiko Harada, Yasuo Ohashi, Yoshikuni Kita, Yoshihiko Naito, Michiko Yamada, Naohito Tanabe, Hiroyasu Iso, Hirotsugu Ueshima; for the Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study (JALS) Group. Body mass index and risk of stroke and myocardial infarction in a relatively lean population: meta-analysis of 16 Japanese cohorts using individual data. Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2010 ;3:498-505. (PUBMED)