研究成果
3.論文解説
血中総コレステロールとnon-HDLコレステロールによる循環器疾患発症リスクの予測
本論文を執筆した田邊直仁先生(新潟大学)よりコメント ・・・
健診成績等から急性心筋梗塞に罹患する確率を予測できるようにしたいというのは、私が疫学を志した動機の一つでした。今回、血清コレステロール値を入り口としてこれを可能とするリスクスコアの作成に携わることができたことに心から感謝しています。健診や診療で活用していただければ真に幸いです。また今後作成されるであろう脳卒中のリスクスコアを心待ちにしています。
はじめに
血中総コレステロール(TC)とLDLコレステロール(LDL-C)の高値は、冠動脈性心疾患のリスクである事が知られています。また、TCからHDLコレステロール(HDL-C)を引いたnon-HDLコレステロール(non-HDL-C)はTC値やLDL-Cよりも循環器疾患のリスクを測る指標として有用であるという報告もあります。

そこで、本研究ではJALSの0次データを用いて、循環器疾患発症のリスクとしてTCとnon-HDL-Cを比較するとともに、循環器疾患を5年以内に発症する確率を予測するスコアの作成を試みました。
循環器疾患と冠動脈性心疾患
循環器疾患とは、心臓と血管系の病気のことです。
具体的には、冠動脈性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)、心臓弁膜症、心不全、不整脈などの心臓疾患や、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血といった脳卒中、高血圧症、大動脈瘤などが含まれます。

冠動脈性心疾患とは、心臓の周囲を冠状にとりまいて心臓の筋肉(心筋)に酸素を供給する血管(冠状動脈)の血液の流れが悪くなり、心臓に障害が起こる病気です。虚血性心疾患とも呼ばれます。

冠状動脈の内側が狭くなり、心筋の仕事量に応じた酸素を供給できないのが狭心症です(心筋の壊死は生じていない)。さらに冠状動脈が閉塞して心筋の一部の組織が壊死した(機能しなくなった)のが心筋梗塞です。
コレステロールとは
コレステロールは主に肝臓で生成されます。コレステロール自体は細胞膜、各種のホルモン、胆汁酸を作る材料となる、体に必要な物質です。

生活習慣病のリスク因子として取り上げられているのは、蛋白質などと結合しリポ蛋白として血液中にとけ込んでいるコレステロールです。

血液中のリポタンパク質には、大きさによって、カイロミクロン、超低比重リポタンパク(VLDL)、中間比重リポタンパク(IDL)、低比重リポタンパク(LDL)、高比重リポタンパク(HDL)に分類されます。
このうち、 LDL はコレステロールを肝臓から血管壁に運んで動脈硬化を促進するため「悪玉」と呼ばれています。VLDLやIDLにも動脈硬化を促進する働きがあり、IDLはLDLに含める場合もあります(広義のLDL)。一方、 HDL はコレステロールを血管壁から肝臓に持ち帰って動脈硬化を予防する役割を持つので「善玉」と呼ばれています。

血液中のコレステロールは殆どがHDL, LDL, IDL, VLDLに存在しておりTCはこの合計値になります。TCやHDL-Cは食事の影響を受けにくことから、TCからHDL-Cを引いた値であるnon-HDL-Cは測定値の信頼性が高いといえます。


non-HDLコレステロール = 血中総コレステロール − HDLコレステロール

最近の健診ではLDL-Cが測定され、VLDLが反映されていません。IDLは検査試薬によってLDL-Cに反映されたりされなかったりします。

non-HDL-Cはこのような動脈硬化惹起性の高いリポタンパクも総合的に判断できるため、近年、循環器疾患の新たな指標として注目されています。
方法
本研究では、年齢が40歳以上90歳未満で、TCや血圧などのベースラインデータが得られている人を対象としました。急性心筋梗塞の発症の解析では10コホート22430名、脳卒中の解析では9コホート15269名のデータを用いました。対象者を総コレステロール、non-HDL-C各々の値をもとに4等分して、最も値が低い群を基準とした発症率比、さらには1SD上昇あたりの発症率比を算出しました。

5年後の循環器疾患の発症を予測するスコアの作成には多変量ポアソン回帰モデル(score-rating model)を用い、スコアが0点の場合を基準とし、スコアが10点増えるごとにリスクが2倍になるようにしました。
結果
TCとnon-HDL-Cそれぞれを4分位階級にし、一番低い群(Q1)を基準にした時、階級が大きくなるほど心筋梗塞のリスクに強く関係しているようでしたが、脳卒中ではそのような関係が見られませんでした。


◆4分位階級のTCを用いた発症率比(95%信頼区間)


◆4分位階級のnon-HDL-Cを用いた発症率比(95%信頼区間)

TCを連続変数として扱い、1SDでの発症率比を算出すると、心筋梗塞で1.49、脳卒中全体で0.98となりました。同様の解析をnon-HDL-Cで行うと、心筋梗塞で1.62、脳卒中全体で1.01となり、TCよりもnon-HDL-Cの方が心筋梗塞のリスクに強く関係している事が明らかになりました。


◆1SD上昇あたりの発症率比( 95%信頼区間)
5年後の急性心筋梗塞の発症を予測するスコアを作成した所、TCよりもnon-HDL-Cを用いた方がより予測力が高い事が示されました。


◆AUC



◆5年後急性心筋梗塞発症予測スコア




◆5年後急性心筋梗塞発症確率の予測


おわりに
本研究の結果からTCよりもnon-HDL-Cの方が心筋梗塞のリスクに強く関係している事が明らかになりました。

本研究では、個々人の急性心筋梗塞発症のリスクを評価するリスクスコアを開発しました。このリスクスコア(チャートは現在準備中)は、個々人のリスクを数値で理解する事ができるので、リスクが高い人への生活習慣の指導等で役に立つでしょう。

皆さんの健診等での検査値を入力することで、上記リスクスコアを算出可能なプログラムを提供しておりますので是非お試しください(*ファイルのダウンロード* (入力すべきセル以外をクリックするとパスワードを聞かれる場合がありますのでご注意ください))。
Naohito Tanabe, Hiroyasu Iso, Katsutoshi Okada,Yasuyuki Nakamura, Akiko Harada, Yasuo Ohashi, Takashi Ando, Hirotsugu Ueshima; Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study Group. Serum total and non-high-density lipoprotein cholesterol and the risk prediction of cardiovascular events - the JALS-ECC -. Circ J. 2010 ;74:1346-56.  (PUBMED)